六年前

 牢屋のような、殺風景な部屋だった。

 手が届かないような高さの位置に小さな窓。木製の扉は心なしか大きく見えるのは、部屋の狭さに際立っているのだろうか。コンクリートの床はアリスの体温で温まる事も無く、死体のような冷たさは変わらないままだ。

この部屋―籠のようなこの乗り物は今、現実とあの世界への狭間の空間の流れに流されていた。川の流れに沿うかの如く流されるがままだが、無重力空間の様に体がひっくり返る訳でも無く非常に安定していて、これを動かしている白兎には感嘆の声を上げざるを得ない。

 そんな事を考えていると、白兎の声が部屋に響いた。「そろそろだよ、アリス。ああ、遅れちゃう」

「分かったわ」

「ねえ、アリス?驚かないでね。遅れちゃうから」

 白兎の妙な口癖は何時もの事なので、気にも留めない。「何?」 

「女王の国は、随分変わってしまった。君がいない間にね」

「そうらしいわね」

「女王はもう永くないからってあまり表に出ないし、帽子屋は殺されるし、チェシャ猫も逃亡中だし。ああ、遅れちゃう」

「…そうね」

「アリスも、変わった」

「え?」

「あのアリスは随分面白いよ、アリス?」

 
 白兎は笑いながら口を動かす。それを見て、アリスは意味が分からず白兎の言葉に脳が反応しないままだった。
 

Oh dear! Oh dear! I shall be too late!

Oh! The Duchess, the Duchess! Oh! Won't she be savage if I've kept her waiting!